2015年11月14日土曜日

不良債権の巨額化

不良債権の巨額化に対処するため、銀行は九三年度から貸倒引当金の積み増しを積極化している。実際、九三年度の決算をみれば、都銀だけでも二・三兆円強もの償却金を計上している。そして、この規模の間接的償却額の積み増しは、二・四兆円弱の業務純益に匹敵するまでになっている。それにもかかわらず不良債権の処理を依然として進めざるをえないのは、償却のための貸倒引当金の積み増しを凌駕するペースで不良債権に付随する潜在的損失額が膨張しているためである。

そして、この窮境下で経常利益ペースでの欠損への転落を回避し何がしかのプラスの経常利益を確保するには、結局のところ多額の株式売却益を計上する以外にはない。だが、相当の規模での株式売却益を計上すると、まず第一にBIS規制の観点からみれば、株式含み益の減少を通じて自己資本(T2部分)を抑制させ、ひいては信用創造にブレーキをかけることになる。また第二に、株価水準が一定に維持されていると仮定してみても、多額の含み益の減少は不良債権問題に対する銀行の体力低下をもたらす。そして第三に、売却益の計上のために株式の売却がかなりの規模となれば、悪くすれば株価に下落圧力を与えかねない。

ところで、不良債権の巨額化と付随する潜在的コストの増大は、株価次第では銀行の経営基盤にも、大きな影響を与えかねない状況を生じさせている。都銀、長期信用銀行、信託銀行を合わせた主要二一行の実体的不良債権を三〇兆~四○兆円と仮定すると、共同債権買取機構に持ち込まれた債権の担保不動産に関する評価損率は、九四年春頃で六〇~七〇%にまで悪化している。

この評価損率を主要一一行の不良債権の評価計算に応用するならば、潜在的な元本評価損額は一八兆~二八兆円のレンジと試算できる。これに不良債権にかかおる金利未収計上分を機会損失として付け加える必要がある。これについては、たとえば金利を四%と置き、不良債権の処理を三年程度で済ますと想定すれば、この部分の損失額二・六兆~四・八兆円になる。すると、元本部分と金利部分と合わせた潜在的総損失額は二二兆上二三兆円と試算される。