2015年8月19日水曜日

国連は中立を厳守すること

国連が発行しているPKOに関する広報資料にも、PKOを成功に導くためには、紛争当事者の同意や、敵対国同士あるいは一国内の当事者に対し、国連が中立を厳守すること、常任理事国を含む国際社会の幅広い支持があることなどの条件が欠かせない、とうたっている。だが、重要なことは、こうした経験則は、これまでの国連の試行錯誤を踏まえた目安に過ぎず、必ずしも絶対ではない、という点だ。PKOは、それぞれの紛争に対応した特殊な国連活動であり、共通して定式化できるものではない。コンゴ動乱で見たように、PKOが武力を行使する局面があり得たし、情勢次第では、それを容認することは今後もあり得る。これまで見てきたPKO原則は、主として冷戦下で積み重ねられてきた実践例の要約に過ぎず、冷戦後にもその原則が妥当するという保証はない。

例えば、実際に湾岸戦争後に展開された国連イラク・クウェート監視団(UNIKOM)の事例を見てみよう。これは一九九一年四月九日、非武装地帯にいる軍隊の撤退や交通の監視などを任務として安保理か設置を決めたものだ。監視団の性格や中立性などは従来のPKOと同じだが、この設置を定めた安保理決議第六八九号は、前文で、「憲章第七章のもとで行動する」と明記している。つまり、従来の「第六章半」というPKOの位置づけではなく、「強制措置」を定めた第七章に拠ることを明確にしたわけである。米国など当時の安保理常任理事国の担当者の見解は、「かりにイラクが受け入れを拒否しても、この前文を根拠に、UNIKOMは展開できる」という立場だった。