2015年6月13日土曜日

最先端の現場を支えていたのは請負従業員だった

「今は、何よりも職業訓練学校に通いたいのに、応募者が殺到して枠がない可能性もある。自分でも調べたい。こんなことやっている場合じゃない」それから、三週間後。神奈川県で開かれた、職業訓練学校の説明会に、西本さんも参加していた。会場は、派遣を打ち切られた人々など失業者で満員だ。介護福祉などさまざまな分野で、希望者が殺到していた。職業訓練学校では六ヵ月間、専門の講師のもとで、さまざまな職業の基礎的な技術を学ぶことができる。訓練費用は原則無料で、学校に通う間は生活費の融資を受けることも可能だ。

西本さんが説明を聞いた仕事は、住宅の内装だった。担当者の説明では、訓練学校を卒業しても、最初の三年間は職人のもとで見習いをしなければならない。給料はて一万~一三万円が相場だという。厳しい実情を聞いた西本さんは「これくらいの給料で、アパートを借りるとカツカツですよね」と、不安をロにした。「学校を卒業しても、やっていけないと思うならば、止めた方がいいと思います。やはり、六ヵ月、一年という期間は貴重だと思いますので」担当者からは、生半可な気持ちで仕事はできないと、諭されてしまった。

しばらく経って、再び西本さんを訪ねた。西本さんは、迷い続けていた。職業訓練学校で技術は身につけたいが、今日を生きるためのお金も稼がねばならない。しかも、今は貯金がゼロ。退寮を迫られているなかで、もう残された時間はない。西本さんに、最後に派遣でもう一度、働きたいか尋ねた。「もう派遣で働きたくないです。今回これだけ社会問題にもなって揉めたら、(派遣労働は)もっと効率のいい形になるでしょうね。企業側は、進化していくでしょうけど、うちら労働者はついていけないですよ」西本さんは寂しそうに笑っていた。

東京・新宿に本社を構える日本マニュファクチャリングサービス。中堅の人材請負会社で、約二五〇のメーカーに対し、四〇〇〇人を超える従業員を生産現場に送り出している。社長の小野文明さん(四九歳)は九年前、請負会社を辞めて独立した。人材の配分は派遣四割、請負六割だが、小野さんは派遣の比率をゼロにすることを、目標にしている。何かと弊害の多い派遣労働ではなく、請負を正しく実践することが、メーカーにとっても、人材会社にとっても、そして従業員たちにも、ペストな選択であると考えているからだ。

小野さんは「派遣ビジネス、労働者供給事業ではない、モノ作りを請負で実戦できる集団を目指す」と従業員たちに訴えた。業界の裏も表も知り尽くしている小野さんは言う。「派遣社員も請負従業員も、非正規と呼ばれているが、僕は非正規という、その言葉自体が大嫌い。僕らにとっては大事な社員です。メーカーとは、契約上請負でやっている仕事なのです」小野さんは、これまでベールに包まれた請負現場の実情について、初めて取材に応じてくれた。ガイア取材班は、関東圏にある工場に出向いた。そこは、ある大手半導体メーカーの工場だった。