2014年9月13日土曜日

包括貿易・競争力強化法

八七年三月には、半導体等二五品目にたいする一〇〇%報復関税が発表され、さらに上、下院で、日本の恐れていた包括貿易法案が通過して、八八年八月「包括貿易・競争力強化法」が成立した。包括貿易法によれば、「不公正な貿易慣行」の存在が認定された場合に行政府は、相手国の貿易障壁撤廃、市場開放のために年限を決めて交渉しなければならない。合意不成立の場合には、相手国にたいする優遇措置の撤回、報復関税、輸入制限など制裁措置をとらなければならない。この法律は日本、NIESを対象としているが、とりわけ従来の対日分野別協議(MOSS)、農畜産物自由化、知的所有権の保護、関西新空港など土木建設分野への米企業参入、それにココム違反を犯した東芝グループからの輸入や政府調達の三年間禁止、外国企業によるアメリカ企業の買収や合併の監視など、従来の日米経済摩擦で浮び上がってきた保護主義的条項が包括的に盛り込まれている。

しかも、通商法三〇一条を改正して、不公正貿易の認定・交渉権を大統領から通商代表部(USTR)に移管して。「相互主義」発動の機動性をましている。これが「スーパ三〇一条」とよばれるもので、八九年五月、アメリカはスーパーコンピュータ、人工衛星、木材の三品目についてこの項目の対日適用を決定した。こうした貿易摩擦はたんに日本とアメリカ、ECとのあいだにとどまらず、近年では、鉄鋼、農産物をめぐりECとアメリカとのあいだに、またアメリカ、ECと台湾、韓国などNIESとのあいだにも起こっている。輸出による摩擦とともに、アメリカ、ECから、日本の農産物自由化、金融・資本市場の自由化、非関税障壁の撤廃など、よりいっそうの市場開放の要求が高まり、九〇年には日米間に経済構造協議が行なわれ、両国とも国内経済構造を改善して市場拡大、モノーサービス貿易の自由化をすすめることで合意が成立した。

八九年九月から九〇年六月にかけて、日米両国は対外不均衡是正のために貿易と国際収支調整の障害となると考えられる構造問題の協議に入り、九〇年六月最終報告を発表して、この報告で識別された諸問題の進捗状況を定期的に評価することをとり決めた。日本側の問題点としては①貯蓄・投資パターンについては公共投資の大幅拡充、②土地の有効利用促進や建築規制緩和、③流通関係では大店法や景品付き販売などの規制緩和と公正取引委員会活動の重視等、④排他的取引慣行については独禁法の強化、談合の禁止や行政指導の公表等、⑤系列については競争阻害行為の監視や対日投資促進、⑥価格メカニズムについては共同調査、などが挙げられた。

また、アメリカ側の改善方策としては、①貯蓄・投資パターンについては赤字財政の均衡化、②競争力強化、③政府規制の改善、④研究開発の促進やメートル法採用、⑤輸出振興、⑥労働力の教育・訓練等が挙げられた。構造協議はお互いに、市場経済のタテマエからみて不可解な問題をつき合わせたという性格をもち、貿易改善との関係は未知数であるものの、「異質文明」同士の相互理解にとっては積極的な意味をもつだろう。先進国の経済構造がサービス化をすすめるとともに、また、多国籍企業の相互乗入れ投資がふえるにつれて、世界貿易に占めるサービス貿易が増大し、その比重も近年著しく高まってきた。サービス貿易とは、船舶・運輸、旅行、労働・経営・専門技術、通信、銀行保険など民間サービスを意味し、これに軍や外交公館など政府サービス、海外投資収益をふくめる場合もある。

現在(九〇年)の世界商品貿易(往復)約六兆ドルにたいし、サービス貿易は一二兆ドルと五分の一程度である。世界の工業製品生産額の四五%程度が輸出されているのにたいし、サービス輸出はまだ一割程度にとどまっている。しかし、とりわけ一九八〇年代中葉から先進国間の取引を中心に、サービス貿易の伸びがめざましく、商品取引の伸びを上回っている。そのため、サービス貿易について国際的な枠組みをつくる必要が痛感され、ガットのウルグアイラウンドでの主要な交渉項目となっている。