2013年11月7日木曜日

インド人青年の精神の向上と団結力の強化

こうした状況の中で、ヒンドゥー・ナショナリズム運動は急激な拡大を遂げている。さらに、パキスタンとの軍事的な緊張状態は、九・一一テロ事件以降、急速に高まっている。このようなインドの現状をどのように見ればよいのか? 本書では、現代インドの動きを、現地での草の根レベルから明らかにしていくつもりである。インドの街の朝は実に騒々しい。早朝にもかかわらずヒンドゥーのお寺は大音響で宗教音楽を流し、さらにスピーカーを使い最大のボリュームでマントラを唱えている。車はクラクションを容赦なく鳴らし、オートリキシャーはけたたましいエンジン音をたて、野良犬は吠え、物売りは大声で何やら叫んでいる。すがすかしい朝とは程遠い。

そのような中、公園や空き地のようなオープンスペースでサフロン色の旗を立て、その旗の前で整列や行進をしている一見奇妙な集団がいる。それかRSSのシャーカーだ。RSSとはヒンディー語のRashtriya Swayamsevak Sangh(ラーシュトリーヤースワヤンセーワクーサング)の頭文字をとったもので、日本語では「民族奉仕団」と一般に表記される。インドはとにかく頭文字をとって略すのか好きな国である。新聞を読んでいても略表記のオンパレードで、その団体かどういう組織なのか理解するのに時間がかかる。政府機関もこのような略称で表記されることか多く、何の略なのかを理解するのか大変だ。しかも、それか英語の略であったりヒンディー語の略であったりとパラパラで、外国人の我々にとっては、逆にややこしいことか多い。RSSもその例に漏れず、頭文字をとった略式で表記されこう呼ばれている。

このRSSは一九二五年にへードゲーワールという人物によって設立された団体で、インド人青年の精神の向上と団結力の強化を目標として設立された。この団体はインド・パキスタンの分離独立の際に生じたヒンドゥー難民の救援活動を積極的に行なったことにより多くの支持を受け、急速にメンバーを増やした。その後、一時は非合法化されたものの、着実にメンバーを増やしつづけ、今ではRSSが設立したBJP(インド人民党)はインドの中央政界の与党にまでなった。現在の首相であるヴァジパイーや、現在の内相で次期首相候補の筆頭であるアドバーユーは、RSSか輩出した人物である。RSSの現代インドにおげる影響力は計り知れないほど大きい。

そのようなRSSの活動の中心と位置付げられるのが、シャーカーである。シャーカーというのはヒンディー語で「支部」を意味する語であるか、RSSでこの語を使う場合、地方組織や各地の事務所を指すのではなく、朝夕に行なわれる末端のトレーニングのことを指している。このシャーカーは、インド全土で三万か所以上もあるとされる。私は主に、序章で述べたアヨーディヤーと首都デリーにおいてこのシャーカーを調査してきた。では、まずこのシャーカーで、どのようなことを行なっているのかを、ざっと見てみよう。一回のシャーカーは、通常一時間ほどである。参加者はそれぞれ各地によって違うか、概ね二〇人から三〇人で構成される。また、多くのシャーカーでは年齢別にグループ分けをする。シャーカーの中心となるのは若者グループで、一〇代半ばから二〇代半ばの青年を中心としたメンバーで構成される。他にも六〇歳以上の老人で構成されるグループや、子供ばかりで構成されるグループもあり、青年グループとは若干異なるプログラムを行なっている。

参加者の中にはムッキヤーシクシャークと言われる教育係が一人とガタナーヤクと言われるグループリーダーが数名いる。シャーカーに参加するメンバーは原則として、カーキー色のシヨードパンツに白いシャツという制服を身に着けることになっている。シャーカーは、教育係の笛の合図と共に全員が整列し、サフロン色の旗を立てるところから始まる。この立てた旗に対して、参加者は、胸に手をあて、背筋をピンとのばし、一礼してRSSのメンバーであることの誓いを行なう。これは軍隊か国旗に向かって敬礼するのに似ており、とてもいかめしい印象を受ける。その後、「回れ右」「右向け右」などの号令に合わせて整列の練習をし、その整列した状態から行進の練習に移る。場所によっては、さらにランニングをするところもある。